―糖尿病教育入院のクリティカルパスについて―
国立長野病院 栄養管理室長
鶴見 克則
はじめに
国立長野病院では平成9年に開院以来、各病棟の看護部門でクリティカルパス(以下CP)に取り組み徐々に実施されその有功性が明らかになりつつある。
栄養管理室では心臓疾患術後のCPを先に取り組んでいた。従来の糖尿病教育入院では、糖尿病患者の血糖コントロールを食事療法に比重が置かれていたが、
実際には患者自身の食事療法に対する理解度は不十分であった。患者にセルフケアの主体として、患者自身が自信に裏づけられた食生活を続行できるように栄養食事指導の方法を構築しなければならなかった。
糖尿病教育入院CPが提案されたのは一般内科病棟の看護側から取り上げられ、常時2〜3人入院している糖尿病疾患者指導の標準化を図り、教育入院の患者に対する看護の質を向上する目的で学習がされていた。糖尿病の教育入院に基準は無く、患者に何時、誰が、何をどのように指導しているか明確ではなかった。そのため、各々が専門性を発揮するように連携がされていなかったため指導の効率が悪いことが問題点として上がった。
そこで、一般内科の医師・コ・メディカルで行っていた糖尿病の病棟カンファレンスにおいて看護側から糖尿病教育入院の標準化を図る必要性が取り上げられ、入院期間13日の糖尿病教育入院CPを糖尿病の病棟カンファレンスに参画しているメンバーにより作成が提案された。
糖尿病教育入院CPの作成過程
CPによりインフォームドコンセントを図り、患者が主体的に治療に参加できること。コ・メディカルの連携を明確にして指導内容を標準化することを目標に、従来実施している指導内容を整理し、現実的で各自の役割を発揮できるCPの作成に取り組んだ。
各々が実際に実施した指導内容を書き出し、カンファレンスを幾回に分けて開催し検討した。各々が実施した日を時間軸で表示することにより、不足する部分と重複する部分を把握し、不足部分を誰が補足するか、互いの連携をどのようにするか検討しCPの原案が作成された。原案の内容を医事課の診療報酬担当者に問題点は無いか点検を依頼して「糖尿病教育入院クリティカルパス」(表1)が完成した。
平成11年9月からCP対象の最初の糖尿病患者が入院したことから実際に患者からのCPの内容の意見を聞き、糖尿病教育入院CPの運用の参考にするともに、患者の説明の方法などを病棟カンファレンスにおいて意見交換をして職員用のマニュアルに追加した。
糖尿病教育入院CPの特徴
糖尿病教育入院CPの特徴は、第一に糖尿病教育入院患者の診断と治療・指導をマトリックスにしたものであるが、第二に時間軸に沿ってコ・メディカル毎の役割が明記されている。誰が・何時・何を指導するかを明らかにし、系統的に指導できるものである。患者には主体的に参加出来ることと、運動の実施内容の記録できるスペースを設け、集団指導の開催日を明記した。看護側の欄に患者の状態やアウトカムのメモがあり、他のコ・メディカルへの情報提供欄になっている。第三に患者の理解を促進するだけではなく、家族の協力が得られるように、土日の試験外泊及び退院時に患者・家族を交えての病棟カンファレンスに参加して頂、退院後の継続療養が可能になるように働きかけている。
CP導入の成果
(1) CPの導入は、栄養食事指導の計画化を図り、栄養食事指導の成果を客観的に評価ができるようになった。
(2) CPに栄養士が参画して、患者の栄養教育効果の向上した。
(3)コメディカルが連携することにより、病院経営に貢献した。
これまで、糖尿病教育入院患者の病棟カンファレンスに栄養士は他のコ・メディカルと参画してきたが、主に診療経過報告であり栄養士は栄養食事指導状況を報告だけに終わっていた。
糖尿病教育入院CP導入後では、担当医長との週一回の総回診に栄養士が副院長、医長、看護婦長、薬剤師、検査技師らと同行することで、患者の情報がより多く収集でき、患者に対する指導内容が的確に行えるようになった。
CP導入により、チーム医療が実現した。栄養士の参画は、栄養士の本来業務である栄養食事指導をより充実させ、効率的に行えることが期待できるようになった。今回の糖尿病教育入院CPに栄養アセスメント(身長・体重・下腿周囲長・上腕周囲長・上腕三頭筋皮下脂肪厚・肩甲骨下部皮下脂肪厚・簡易カロリーメーターによる安静時消費エネルギー測定)の導入は、安静時消費エネルギーの測定によって、患者の過去の摂取エネルギー量が如何に過剰であったことや、下腿・上腕周囲長及び皮下脂肪厚を患者の身体測定を把握することで、より効果的な栄養食事指導ができる。
今後の課題
今後の糖尿病教育入院CPの栄養教育プランには、食品の選択で糖化指数(Glycemic Index:GI)の低い値の料理を摂取した場合の食後2時間から3時間の血糖値の変化の教育。また、食品の栄養成分表示の理解や、市販されている特別用途食品・病者用食品の活用方法の教育。
その他低GI献立や食品の教育するための料理教室を開き実際に試食して料理の教育や、外食時の料理の選択、摂取量、不足分を補う方法などの教育及び食品と医薬品相互関係、身体活動の量と内容、生活時間の設計の教育をする予定である。また、教育に使用する指導媒体も年齢に応じた食事内容のフードモデルなどの作成も必要であると考える。
おわりに
今回のCPを実施することで、チーム医療が推進され、他の職種との連携が保たれた。医療の質の向上に向けていく必要があると考える。そのため、CPを実施するには、CP担当の栄養士の質と技術の向上が当然要求される。栄養アセスメントの実施により、より効果的な栄養食事指導が可能になる。そのためには、今後は臨床栄養管理業務とフードサービス業務を独立する必要があると考える。