脊椎手術患者に対するクリティカルパスの効果 ― 入院期間短縮の成果 ―
長野赤十字病院 リハビリテーション科 出口正男
当院は病院経営戦略の中で「急性期入院加算」の適応獲得とその維持を目指してきたが、厚生労働省からの認定を受けるに当たり平均在院日数の短縮は高いハードルであった。目標平均在院日数は17日以内が必須であり、ゆくゆくは14日以内が要求される。整形外科病棟においては、大腿骨頚部骨折患者の在院日数をいかに短縮するかが最重要課題であったが2000年初頭より同骨折患者にクリティカルパス(以下、パス)を導入して治療成績の向上のうえに在院日数を劇的に短縮することができた。この経験を生かして、2000年9月より脊椎疾患患者に対してもパスの導入を試みてきた。パス導入の主目的は在院日数の短縮であるが、無理な早期退院は手術成績を低下させることも懸念され本末転倒の結果を招きうる。そこで,パス導入前の患者群と比較してパス導入が在院日数に及ぼした効果と治療成績を検討した。【対象・方法】外傷、転移性腫瘍、化膿性炎症などを除く脊椎手術患者にパスを導入した。調査項目は在院日数、術後在院日数、術前と術後1年の日本整形外科学会治療成績判定基準(JOA)スコアとし、さらに固定術を行った例では骨癒合の検討を行った。治療成績はJOAスコアによる改善率で評価した。パス導入後1年以上経過観察できた患者を調査対象として、パス導入前の患者群(1997年4月より2000年8月までに同様の疾患で脊椎手術を受けた患者)と比較検討した。【結果】対象は94名であった。パス導入前の比較対象患者は244名であった。平均在院日数はパス導入前が40.7±27.1日でありパス導入後では19.8±9.0日と有意に短縮していた。術後平均在院日数も32.4±25.0日から16.5±7.2日へと有意な短縮を認めた。脊椎固定術はパス導入前に72例、パス導入後に30例あり、偽関節例は各々7例、2例であり癒合率に差は認めなかった。JOAスコア改善率からみる治療成績の比較ではパス導入前が61±26%、パス導入後が71±26%であり差は認めなかった。予防的抗菌薬使用期間はパス導入前が手術当日を含めて3.0日、導入後が1.2日と確実に減少したが術後感染はパス導入後には生じなかった。脊椎手術用パスでは入院期間は17日を設定していたが、94例中68例において入院期間は17日以下の目標を達成できていた。一方、26例においては入院期間目標を達成できていなかった。この26例中7例においては著しい神経症状ゆえ手術前の入院期間が長くなったものであり、19例においては術後経過の不具合や主治医と患者間の情緒的コミュニケーションによるものであった。【まとめ】脊椎手術患者を、クリニカルパスを併用してケアしたところ、パス導入前に比較して入院期間の大幅な短縮を実現できた。また術後1年以上の治療成績ではパス導入前後で変化はなく、短期間で質を維持した手術治療ができていた。